学びには「ふりかえり」が大切だといいますが、振り返るのは授業の中だけでいいのでしょうか。
授業で学んだことを外で実践したり
日常生活で経験したことを授業で深めたり
日常と授業は本当はつながっているもの。
「学び」とは自分の中の認識が変わること。それなら、心の変化を大事にしたい。
毎日の生活の中での気づきや疑問、どんな気持ちになったのか、それはなぜか。
そんな心の動きはメモしておかないとすぐに忘れてしまいます。
でも、いちいち日記やポートフォリオに記録するのも面倒です。
だから、いつものアプリで簡単に記録がつけられるようにしました。
書くのを忘れないように、通知できるようにしました。
小さな気持ちの動きを眺めるうちに、大きな気づきが生まれるかもしれません。
授業をそんな気づきが生まれる場にしてみませんか。
日常と授業をゆるくつなげるシステム、Reflection-botです。
本研究は文部科学省および日本学術振興会が交付する科学研究費助成事業により採択された研究課題「留学生のリフレクションの深化を促す対話型eポートフォリオ・モジュールの開発的研究(16K21342)」「第二言語としての日本語学生を対象とした自己主導型言語学習支援システムの開発(21K1364)」の助成を受けたものです。
Reflection-botは身近で慣れたアプリであるLINEを用いて継続的に振り返りを記録するための疑似対話型入力システムです。 いわゆる「チャットボット」と言われるシステムなのですが、個々のLINEに「ともだち」のひとりとして入れておくと、トーク画面からメッセージを送ってくるのです。「今日は何かあった?」「どんな発見があった?」と。 それに返事をすると、記録されて残る。単純にいうと、そんなシステムです。
実は、ボットが送るメッセージの内容は先生が決めておくことができ、クラス全員に毎日同じものが届きます。 でも、学生にも都合がありますから、受け取る時間はそれぞれの学生が設定できます。 もちろん、学生が突然書きたくなったら、トーク画面からいつでも書き始められますし、 授業中などに一斉に通知したいときには、それもできます。
書き溜めた記録は、あとで見返すことが大事です。 トーク画面からも見られますが、先生は一括ダウンロードも可能です。 それから、学校で使っているLMSとつなげる機能もつけました。 家や外出先ではLINEから書き、見て振り返るときは授業中にLMSから、という使い方もできます。
先生はLINEを使う必要は一才ありません。すべての操作がブラウザひとつで完結します。 もちろん、学生と「ともだち」になる必要もありません。
※ 本システムはLINE Messaging API(2)が持つ、登録したユーザーに対して1対1のメッセージ(LINEでは「トーク」と呼ばれている)を配信する機能を用いており、あらかじめ設定した一連の設問を送信することで疑似的な対話セッションを行い、回答内容を記録します。一般ユーザーとなる学生等(以下、学生)はLINEのみですべての操作ができる一方で、管理者となる教員等(以下、教員)は管理用URLにアクセスすればすべての設定が行え、教員個人のLINEアカウントは必要ありません。詳細についてはxxx参照。
振り返りを記録するための教育システムや、オンライン日記帳は様々ありますが、 本システムには日常と教室をつなぐための工夫がされています。主な特長をご紹介します。
開発者は学生の自律性を尊重したいと考えています。つまり、基本的には学生が書きたいと思ったときに書いてもらいたいと思っているのですが、習慣づくまではどうしても忘れてしまうことがあるでしょう。
そのため、最低1度は何か書いてもらえるように、毎日決まった時間にお知らせが届く機能をつけました。
さらに通知時刻は学生側が決めることができます。個々の生活に合わせて調整できたほうが書きやすい時間帯に効果的にお知らせできるでしょうし、学生が自分で決めることで記録をより自分ごととして捉え、行動を起こしやすくなるのではないかと考えています。
実際、私たちの小規模な実験では全体の書き込みのうち〇〇%が通知によるものでした。
このように、原則としては能動的な記入を期待する姿勢は保持しつつも、記録忘れを減らすために通知機能をつけています。
よって、トークの開始方法は以下の3種類が用意されています。
LINEで動くシステムにしたのは、現時点の日本ではもっとも多くの学生に使われているであろうアプリだからです。いつも使っているものの方が、書きやすいだろうと思っています。
実際、ある大学で専用のeポートフォリオアプリを使ってみたところ、操作も難しく無く、ログインの手間も感じないという回答だったのに、ほとんど記入できなかったとう事例があります。また、あるクラスで手書き、メール、オンラインスプレッドシート、そして本Botの中から好きな方法で記録するという課題について、全員が本Botを選んだことからも、LINEの浸透ぶりには目を見張るものがあります。
ただ、日常生活でよく使うものはLINEであっても、授業中に見るのはその学校のLMSがいいかもしれません。LINEだとトーク画面を遡ることはできても一覧性に欠けますし、関係ないものが気になってしまうかもしれません。
そこで、日常生活で気軽に書くのはLINEで、一覧したいときや授業中の活動で使うときはLMSで、という棲み分けができるよう、本BotにはLTIツールプロバイダーとしての機能を追加しました。LTI規格に対応したLMSであれば、本Botに記録した内容が一覧できます。
一方で、先生の中にはLINEをほとんど使わない方もいることが分かっていますし、LINEの「ともだち」という概念が個人的で直接的なつながりを想起させ、教員・学生間の関係構築には向かないと考える方もいるでしょう。それに、LINE上の名前は自由につけられるので、LINE上の名前と本名が一致せず、困惑することにもなりそうです。
ご安心ください。
学生はLINEで、教員はブラウザで。
教員側に必要な設定はすべてブラウザ上で完結します。インターネットにつながったPCやタブレットでいいということです。質問の編集や記録の閲覧・ダウンロード、一斉通知などの必要な機能はブラウザから管理者ページにログインして行います。LINEを使う必要はありませんし、学生のLINE上の名前も伏せられます。また、LMS連携機能を有効にしていれば、LMS上でも全員の記録が閲覧できますし、そちらではLMSで使われている学生番号や氏名が表示されます。
これにより、普段は身近なアプリから出来事を記入し、定期的なリフレクション活動はLMS上で記録を閲覧しながら行うといった統合的な振り返り活動がシームレスに行える学習環境を実現しました。
開発者は日本語教育分野におけるインストラクショナルデザイン(教授設計)に関心を持っており、近年では特に大学初年次における自己主導的な日本語学習について考えることが多くあります。入学したばかりの正規留学生に、自分がどのような日本語を必要としていて、そのために何をどう学ぶべきかを考え、計画を立てて、実際に学習をして、自己評価する、という活動をよく授業で採り入れています。本Botはもともと、その活動がやりやすくなるようにと開発したものです。
本Botを活用した授業実践事例をご紹介します。
対象科目 | 「日本語」 |
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科目概要 | 日本語が母語ではない正規留学生を対象とした入学年次必修の外国語科目 |
履修する学生は入学試験で日本語能力検定N2レベル以上の言語遂行能力をもつと判定されています。日本語での基本的なやりとりに問題はないのですが、日本語で行われる専門科目の授業を完全に理解でき議論に参加できるほどの学生はほぼいません。学生たちは母語もいわゆる四技能バランスも将来の目標も異なることから、伸ばすべき日本語力も当然異なります。また、学習スタイルやかけられる時間もそれぞれです。
そのため、各自にとって必要な学習を自律的に進める力の育成も必要と考え、授業の一部を自己主導的な学習について考える時間に充てました。
本実践では、まずは自分が普段どのように日本語を使っているかを記録し、もっとうまくやり取りするために何が必要かを考えるために本Botを使用しました。
そのため、問いかける質問として以下を設定し、週に最低3回は記録するという課題を出しました。
授業中には、その記録を見ながら週の振り返りをする時間を取りました。
また、その振り返りを元に、教員との一対一で学習計画の見直しについて相談したり、学生同士でやってみて良かった学習方法の紹介や励ましあいなどの活動をしました。日本語がうまく伝わらず悔しい思いをしたこと、楽しく継続できるコツなどについては、教員の話より学生同士の方が共感できる部分が多かったようです。
学生からはやる気が出た、もっと頑張りたいという意欲が聞かれるようになったこと、また授業を重ねるごとに書かれる振り返りや計画が具体的になっていったことから、自己主導的に学習を進める力が発揮しやすくなったと手応えを感じました。
各授業回の詳細は以下です。
授業回(全14回) | 内容 |
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初回オリエンテーション |
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2回〜6回め |
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中間報告会 |
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8回〜13回め |
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最終報告会 |
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このように、本Botを使うと、たとえば、学生に日常生活の中で日本語を使ってやり取りをしたことについてLINE上の本システムから記入しておくよう指示し、週ごとの授業時にそれらの記録を概観しながら一層深いリフレクションを促すといった教育的介入が可能となります。
教員は記述されたやり取りについて、なぜ印象に残ったか、何が問題だったか、他にも同様の問題は無かったか、課題は何か等の問いかけをしていくことで、学生の行動の意味づけや学習目標の方向性の再検討ができます。また、学生からは学生同士でそれらの気づきを共有し、他の学生の日本語使用状況や日本語学習への取り組み方について知ることが有用で、自己の学び方が変わったという声が聞けました。
学生側の視点で試用するためには、以下のQRコードから「ともだち」登録をしてみることができます。学生側として試用するにはお手持ちのスマートフォン等にLINEを事前インストールし利用できる状態にしておく必要があります。
この中では開発者が管理者(教員役)となっていますので、適当に試し打ちしてみてください。 BotをLINEから削除する方法はこちらです。
開発者の都合で体験版Botを一時停止・変更することがあります。サーバーメンテナンス等により一方的に登録を解除することがあります。
本Botは授業単位での利用を想定しています。
そのため、利用開始には授業管理者(先生)からの申し込みが必要です。
以下のフォームの説明・注意事項をよくお読みのうえで、お申し込みください。
本Botの運営費は科研費により少なくとも科研年度内は無償で提供可能です。科研終了後も持続可能な提供形態を追求し研究開発を進めています。LMSとのLTI連携については現時点ではMoodleのみチュートリアルをご案内しています。その他、営利目的や教育以外への応用については別途ご相談ください。